インボイス制度が始まり、これまで免税事業者だった方が課税事業者となり、消費税の申告が必要になったという方は少なくありません。
そこで悩むのが、消費税の計算方法です。特に、新たに課税事業者となった方が利用できる「2割特例」と、元々ある「簡易課税制度」、どちらを選べば良いのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
この記事では、インボイス制度における2割特例と簡易課税のどちらを選ぶべきか悩んでいる方に向けて、それぞれの制度の仕組みと、ご自身の状況に合わせて最適な選択をするためのヒントを分かりやすく解説します。
インボイスの2割特例と簡易課税、ほとんどは2割特例がおすすめです
複雑な制度について長々と説明する前に、まず結論をお伝えします。
あなたの事業が「卸売業」ではない場合、簡易課税をあえて選ぶ必要はほとんどありません。 2割特例を選択した方が、納める消費税が少なくなるか、同額になるケースがほとんどだからです。
このシンプルな結論を理解していただくために、それぞれの制度の仕組みを簡単に見ていきましょう。
インボイスの2割特例とは?
2割特例は、インボイス制度を機に課税事業者となった方が利用できる特別な制度です。
- 適用条件:インボイス登録をきっかけに課税事業者になった方が対象となります。
つまり、基準期間(個人事業は前々年)の課税売上高が1,000万円以下で、元々免税事業者だった方が利用できる制度です。 - 計算がシンプル:売上にかかる消費税の20%だけを納付すればOKです。実際の経費がいくらであっても、納める税額は変わりません。
- 届出が不要:事前の届出は必要なく、確定申告の際に選択するだけで適用できます。
- 柔軟性が高い:万が一、高額な設備投資などで多額の消費税を支払った場合でも、申告時に「原則課税」を選択して還付を受けることができます。
この特例は、令和8年9月30日を含む課税期間までという期限があります。
簡易課税制度とは?
簡易課税制度は、事業の種類ごとに定められた「みなし仕入率」を使って消費税額を計算する方法です。
- みなし仕入率とは?:事業区分ごとに「経費として支払った消費税」を一定割合でみなす仕組みです。例えば、サービス業は50%とみなされます。
- 事前の届出が必要:この制度を利用するには、事前に税務署に届出を提出しなければなりません。
- 2年縛りがある:一度選択すると、原則として2年間は継続する必要があります。
インボイスの2割特例と簡易課税、最終的にどちらを選ぶべきか
ここまで見てきたように、2つの制度はそれぞれ異なる特徴を持っています。
どちらを選ぶべきかは、事業の種類で判断するのが一番分かりやすいです。
事業区分 | 簡易課税の納付税額 | 2割特例の納付税額 | どちらが有利? |
第1種(卸売業) | 売上消費税の10% | 売上消費税の20% | 簡易課税 |
第2種〜第6種 | 売上消費税の20%〜60% | 売上消費税の20% | 2割特例 |
上の表からもわかるように、第一種事業(卸売業)の方のみ、簡易課税が有利になります。
それ以外の事業者は、2割特例と同額か、それよりも納付税額が多くなります。
また、すでに簡易課税の届出書を提出していても、インボイス登録を機に課税事業者になった方は2割特例を適用できます。
この2つの制度は併用できないため、確定申告の際にどちらか一方を選択します。
最後に:インボイス制度を賢く乗り切るためのヒント
2割特例には期限がありますが、その後の移行についても安心してください。
2割特例適用期間の翌課税期間中に届け出を提出すれば、その課税期間から簡易課税制度を適用することができます。
届出を出し忘れるリスクを考慮し、あらかじめ簡易課税を選択しておくのも一つの有効な手段です。
しかし、2割特例適用者は翌課税期間中に届出をすれば良いため、より柔軟な選択が可能です。
複雑な制度で悩むよりも、ご自身の事業に集中する時間を大切にしましょう。
もしご自身の判断に迷うことがあれば、税理士に相談してみることも一つの手です。専門家の力を借りることで、安心して事業を継続できます。