「だから言ったのに…」
ビジネスの現場で、あるいはごくありふれた日常の中で、喉まで出かかったその言葉をぐっと飲み込んだ経験はありませんか。
忠告したにも関わらず、相手が違う選択をし、結果あまり良くない状況に陥ってしまった時。
私たちの心には、証明された自らの正しさと、相手へのもどかしい気持ちが渦巻きます。
なぜ、私たちは、これほどまでに「だから言ったのに」と言いたくなってしまうのでしょうか。
そして、その一言が私たちの人間関係に一体何をもたらすのでしょうか。
なぜ人は「だから言ったのに」と言ってしまうのか?その3つの深層心理
この言葉の裏には、単なる「自分は正しかった」という主張以上の、複雑な心理が隠されています。
- 自己の正当化と、承認欲求
自分の予測や意見が正しかったことを、相手に認めさせたい。「あなたの判断は間違っていて、私の判断が正しかった」という事実を確定させ、自尊心を満たしたいという、強い承認欲求の表れです。 - 優位性の確認と、自己防衛
「この問題が起きたのは、私のせいではない。あなたのせいだ」と、責任の所在を明確にすることで、自分を問題から切り離し、安全な場所に置きたいという自己防衛の本能です。
相手より自分の方が、物事を正しく見通せたと、暗に優位性を示そうとしています。 - 関係性をコントロールしたいという欲求
「ほら、私の言うことを聞かないから、こうなったでしょう。次からは、ちゃんと私の言うことを聞きなさい」という、無意識のメッセージでもあります。
この失敗をきっかけに、今後の関係性において、自分が主導権を握りたいという、支配欲の一つの形とも言えます。
その一言がもたらす、たった一つの結末
しかし、どのような心理から発せられたにせよ、「だから言ったのに」という言葉がもたらす結末は、悲しいかな、たった一つです。
それは「対話の終わり」と「人間関係の悪化」です。
この言葉は、相手に深い屈辱感と劣等感を与え、心を固く閉ざさせてしまいます。
問題の解決策を探るための、前向きな対話はそこで停止し、後には、気まずい沈黙か、不毛な責任のなすりつけ合いしか残りません。
関係を育てる魔法の言葉
では、「だから言ったのに」と言いたくなる、その気持ちのやり場を、どうすればいいのでしょうか。
私が、その代わりに使うようにしている魔法の言葉があります。
それは、「じゃあ、どうしようか?」です。
この言葉は、過去ではなく、未来に焦点を当てています。
「誰のせいか」という犯人探しではなく、「これから、どう解決するか」という、前向きな行動を促します。
そして何より、「私も、あなたと一緒にこの問題に取り組みますよ」という、共同作業の姿勢を示すことができます。
特にビジネスパートナーや、チームのメンバーに対して、この姿勢を示すことは、極めて重要です。
起きてしまった問題を個人の失敗として責めるのではなく、チーム全体の課題として捉え直す。
その懐の深さこそが、リーダーとしての信頼を育むのです。
何より一番ショックを受け、落ち込んでいるのは、失敗してしまった当人のはずです。
その人の心に寄り添い、共に解決策を探す姿勢を示すことで、相手は心を開き、より強固な信頼関係が生まれる。
ピンチが、以前よりも良い関係性を築くチャンスに変わる瞬間です。
まとめ:過去を責める人から、未来を創る人へ
「だから言ったのに」は過去を振り返り、相手を責める言葉です。
「じゃあ、どうしようか?」は、未来に向かい、相手と共に解決策を創る言葉です。
私たちは、どちらの言葉を選ぶこともできます。
しかし、私たちの事業や人生を、より良い方向へ導いてくれるのは、間違いなく後者ではないでしょうか。