ペットの家族化が進む現代、トリミングサロンのニーズはますます高まっていると考えられます。
「動物が好き」「自分の技術で独立したい」と考えるトリマーの方にとって、自身のサロンを持つことは大きな夢でしょう。
私自身、動物が好きな税理士として、トリマーのように動物に愛情を注ぐ事業主様を全力でサポートすることこそが、巡り巡って動物たち自身の幸せに繋がると信じています。
この記事では、あなたの悩みを解決する一助となることを目指し、必要な手続きから資金計画、成功の秘訣まで、税理士の視点からポイントを解説していきます。
今回はトリミングサロンを例に解説しますが、ドッグトレーナーやペットシッターなど、他の動物取扱業はもちろん、その他多くの業種の開業にも応用できる内容となっています。
トリミングサロン開業のスタイルと必須手続き
開業の第一歩は、ご自身の状況に合わせた事業スタイル(自宅兼用、独立店舗など)を定め、必要な手続きを実行することです。
税理士の視点から特に重要とお伝えしたいのが、税務署への手続きです。
個人事業主として開業する場合、1ヶ月以内に「開業届」を提出します。
この際、「青色申告」を選択するための「青色申告承認申請書」も一緒に提出しておくことをお勧めします。
青色申告を選択すると、税制上の優遇措置を受けられるようになりますが、そのためには法律で定められた基準での記帳(複式簿記など)を行う必要があります。
「青色申告と白色申告、どちらを選ぶべきか?」という詳細な比較については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひそちらもご参照ください。

もちろん、税務上の手続きだけでなく、事業そのものを始めるための法的な許認可も忘れてはなりません。
参考までに、トリミングサロンの開業には「第一種動物取扱業」の登録が法律で定められています。
この登録には「動物取扱責任者」の選任など、厳格な要件があります。
要件や手続きの詳細は自治体によって異なるため、必ず管轄の動物愛護センターや保健所に直接ご確認いただくとともに、必要に応じて専門家への相談もご検討ください。
開業資金の準備と資金調達法
事業計画において、現実的な資金計画は欠かせません。
必要な資金は「開業資金(設備投資)」と、経営を支える「運転資金」に大別されます。
特に「運転資金」は、事業が軌道に乗るまでの期間を支える生命線です。
最低でも6ヶ月分、できれば1年分の運転資金を用意しておくことが、開業後の精神的な安定に大きく繋がります。
資金調達の方法として、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」などがあります。
制度上、自己資金要件は撤廃されていますが、実務上の審査では自己資金の有無や準備期間における計画性も総合的に判断される場合があります。
また、国や自治体の返済不要の補助金・助成金も有力な選択肢です。
例えば、販路開拓の費用に活用できる「小規模事業者持続化補助金」や、会計ソフト・予約システムの導入に使える「IT導入補助金」など、新規開業者が活用しやすい制度があります。
ただし、安易に借入に頼るのではなく、ご自身の返済能力や事業計画を慎重に検討した上で、適切な資金調達方法を選ぶことが重要です。
専門家サポートの活用は「時間」への賢い投資
開業準備には、事業計画、資金調達、経理、税務など、多くの専門知識が求められます。
これらをゼロから学び、完璧にこなすには膨大な時間がかかります。
トリマーとしての技術を磨き、お客様や動物たちと向き合うという最も大切な業務に集中するために、不慣れな分野は専門家の力を借りる。
これは、単なる外注(アウトソーシング)ではなく、ご自身の貴重な「時間」という資源を守り、本業の価値を最大化するための、賢い経営判断と言えるでしょう。
成功するサロン経営のポイントとリスク管理
開業はゴールではなくスタートです。
事業を継続させるためには、経営者としての視点が不可欠です。
- 成功のポイント
明確なコンセプトによる他店との差別化、WebサイトやSNSを活用した集客戦略、そして全てのコストを考慮した適正な料金設定などが挙げられます。 - リスク管理
開業後の現実的なリスクにも目を向ける必要があります。- 経営リスク: 運転資金不足による資金ショート、想定を下回る集客、近隣への競合店の出現など。
- 動物に関わるリスク: お客様のペットにケガをさせてしまう咬傷事故やアレルギー発症、万が一の逃走など。これらに備える賠償責任保険への加入が強く推奨されます。
- 運営上のリスク: スタッフやご自身の動物アレルギー発症、近隣住民への騒音・臭い対策、排水の環境規制への対応なども事前に検討すべき項目です。
収益モデルの考え方
開業後の事業を具体的にイメージするために、収益モデルを組み立ててみましょう。
これは融資を受ける際の事業計画書作成においても、非常に重要なパートです。
収益モデルを考える上で大切なのは、「売上から変動費を引いた『粗利』で、固定費や税金、借入返済、そしてご自身の生活費を賄えるか」という視点です。
1. 売上を予測する
売上は「客単価 × 1日の平均対応頭数 × 月の営業日数」で大まかに予測できます。
客単価は、周辺の競合店の価格を調査しつつ、ご自身の提供するサービスの価値を考慮して設定します。
2. 経費を「変動費」と「固定費」に分ける
経費は、売上の増減に伴って変動する「変動費」と、売上に関わらず毎月ほぼ一定にかかる「固定費」に分けて考えます。
- 変動費の例: シャンプー・リンスなどの消耗品費、水道光熱費など
- 固定費の例: 店舗家賃、賠償責任保険料、予約システムの利用料など
3. 粗利(限界利益)を計算する
まず、売上から変動費を差し引いて「粗利(限界利益)」を計算します。
【計算式】売上 - 変動費 = 粗利(限界利益)
この「粗利」が、技術やサービスが直接的に生み出す付加価値であり、固定費などを支払うための原資となります。
4. 利益(手残り)を確認する
次に、その粗利から固定費を差し引きます。
【計算式】粗利 - 固定費 = 利益
この利益から、最終的に税金や借入金の返済、そしてご自身の生活費を支払っていくことになります。
インボイス制度への対応も重要な経営判断
2023年10月から始まったインボイス制度への対応も、無視できない経営判断です。
年間売上が1,000万円以下であれば消費税の納税は免除されますが、法人顧客との取引を想定するなら、「適格請求書発行事業者」への登録を検討する必要があります。
「トリミングサロンで法人のお客様?」とイメージしにくいかもしれませんが、例えば以下のようなケースが考えられます。
- ペットホテルや動物病院からの業務委託
- ペットショップからの、販売前の子犬のトリミング依頼
こうした事業者との取引では、相手方が消費税の納税事業者である場合、インボイス登録の有無が取引継続の判断材料となる可能性があります。
一般の飼い主様が中心であれば影響は少ない傾向にありますが、将来の事業拡大を見据えるならば、登録を検討する必要があるかもしれません。
計画的な準備と「想い」で、理想のサロンを実現しよう
トリミングサロンの開業には、情熱に加え、多岐にわたる計画とリスク管理が成功の確率を高めます。
この記事が、あなたの準備の一助となれば幸いです。
事業計画や資金計画で悩んだ際には、一人で抱え込まず、私たちのような専門家への相談もご検討ください。
あなたの「動物が好き」という温かい想いが、素晴らしい形で実現されることを心から応援しています。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・税務的アドバイスを保証するものではありません。具体的な意思決定にあたっては、必ず管轄の行政機関や税理士等の専門家にご相談ください。