ご自身の専門スキルを活かし、「業務委託」という形で新たな一歩を踏み出し、個人事業主として活動していく上で、まず初めに行うべき公的な手続きが「開業届」の提出です。
しかし、いざその「開業届」を前にした時、「職業は何と書けばいいのか」「屋号は必要?」「そもそもこの収入は何所得になるのだろう?」といった、会社員時代にはなかった疑問に直面し、手が止まってしまう方も少なくありません。
この記事では、業務委託で事業を始めた方が、こうした特有の悩みを解消し、自信を持って開業届を完成させるための「書き方」の要点を解説していきます。
開業届の書き方で特に重要なポイント。
まず、業務委託契約で働く方が「開業届」を書く上で、思考の土台となる最も重要な心構えをお伝えします。
それは、「自分は一個の独立した事業主である」と認識し、契約形態(業務委託)ではなく、ご自身の専門的な「事業内容」を書類に落とし込む、ということです。
なぜなら、ここで明らかにしたいのは企業との契約形態ではなく、「何の事業で生計を立てているのか」という事実だからです。
「業務委託」は契約の種類名であり、事業内容そのものではありません。
この点をまずご理解いただくと、各項目を埋める際の迷いが大きく減ります。
例えば、企業からライティングの仕事を業務委託で請け負っている場合は「ライティング(執筆業)」という具合です。
この土台を元に、特に迷いやすい項目を具体的に見ていきましょう。
開業届で特に迷いやすい3つの項目と書き方
開業届には多くの記入欄がありますが、特に個人で事業を始める方が悩みがちなのは「職業」「屋号」「所得の種類」の3つです。
ここをクリアできれば、残りはご自身の情報を書き写す作業が中心となります。
1. 「職業」欄の書き方と具体例
ここはご自身の専門性を具体的に記述します。
第三者が見て、事業内容がある程度イメージできる言葉を選びましょう。
【IT・Web関連の例】
- ITエンジニア
- プログラマー
- ウェブデザイナー
- ウェブサイト制作
- ITコンサルタント
など。
【クリエイティブ関連の例】
- グラフィックデザイナー
- イラストレーター
- ライター
- 編集者
- 映像制作者
など。
【コンサルティング・講師関連の例】
- 経営コンサルタント
- マーケティングコンサルタント
- 研修講師
など。
【動物関連の例】
- トリマー
- ペットシッター
- ドッグトレーナー
- アニマルコミュニケーター
など。
「事業の概要」欄には、「職業」をもう少しだけ詳しく書くと丁寧です。
2. 「屋号」欄は書くべき?
「屋号」とは、事業で使うお店や事務所の名前です。
記入は任意ですが、設定しておくと屋号名義の銀行口座を開設できたり、お客様へのアピール(信頼性向上)に繋がったりと、事業の管理や運営がスムーズになるメリットがあります。
3. 「所得の種類」欄の選択
ここは非常に重要な項目です。
「所得の種類」には「事業所得」と「雑所得」の選択肢があります。
大まかな目安として、継続的な事業として行うなら「事業所得」、一時的な副業であれば「雑所得」を選ぶことになります。
事業のスタートとして開業届を提出する今回は、ご自身の活動が「事業」であるという意思表示でもあるため、「事業所得」を選択するのが自然な流れです。
業務委託で開業届を出すメリットとは?
開業届を提出する直接的なメリットは、その「控え」が、あなたが個人事業主であることを証明する公的な書類の一つとして機能することです。
具体的には、以下のような手続きの際に、提出を求められることが多くあります。
- 屋号名義の事業用銀行口座の開設
- 事業用のクレジットカードの申込
- 小規模企業共済(事業主のための退職金制度)への加入手続
また、多くの方がこの開業届を提出するのと同じタイミングで「青色申告承認申請書」の提出も行います。
なぜなら、青色申告の承認を受けるためには、原則として事業を開始した日から2ヶ月以内に、この申請書を提出しなければならないという、厳密な提出期限が定められているからです。
この期限をうっかり過ぎてしまうと、事業を開始した初年度は青色申告の大きな節税メリットを受けられなくなってしまいます。
そのため、忘れてしまうリスクをなくし、確実にメリットを享受するために、開業届と同時に提出するのが最も確実で推奨される方法だと考えています。
なお、開業届を提出することのメリットや、逆に出さなかった場合のデメリット(罰則の有無など)の全体像については、以下の記事でさらに詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。

まとめ:開業届の書き方は難しくない!自信を持って事業主への一歩を
今回は、業務委託で働く方が開業届を書く上で、特に迷いやすいポイントを中心に解説しました。
- 「職業」欄には、ご自身の専門性を具体的に記載する(動物関係の例も参考に)。
- 「屋号」は、お客様に事業内容をアピールし、信頼性を高める上で効果的。
- 「所得の種類」は、継続的な事業の意思表示となる「事業所得」を選択するのが基本です。
これらの要点を押さえれば、開業届の作成は決して難しいものではありません。
この一枚の書類は、「個人事業主」として、社会に向けて「これから事業で進んでいきます」と宣言するための、大切な意思表示と言えるでしょう。